日銀によるETF売却の実務的影響は極めて限定的である。売却ペースは年3300億円規模と超スローペースであり、財政的効果も数千億円にとどまるため、マクロ経済や市場流動性への影響は小さい。
一方でシグナル効果は大きく、日銀がETF保有縮小に踏み出したことは「出口戦略」を具体化する措置として位置づけられる。実体的インパクトは乏しいが、市場心理を揺さぶる潜在的要因となり得る。発表直後に株価が急落したことが示すように、政治イベントと重なればボラティリティを増幅させる可能性が高い。
日銀はETFの売却に踏み切った。売却規模は年間3300億円(時価換算で約6200億円)にとどまる。日銀の保有額は簿価で37兆円、時価で70兆円に達しており、このペースでは処分完了まで100年以上を要する計算である。市場全体の売買代金に占める割合はわずか0.05%にすぎない。植田総裁は「市場の安定に配慮して柔軟に進める」と述べ、慎重姿勢を強調した。
長期にわたる金融緩和の結果、日銀は日本株の最大株主となった。この構造は市場の健全性を損ない、企業統治の緊張感を弱めるとの批判を招いていた。今回の決定は、金融緩和の副作用を是正し、「出口戦略」への第一歩を象徴するものである。
9月19日の発表直後、日経平均株価は一時800円超下落した。「このタイミングで売却開始」というサプライズが投資家心理を冷やしたためである。ただし売却規模が小さいことから、株価はその後下げ幅を縮めて取引を終えた。
ETF売却による簿価と時価の差益は日銀の純利益となり、最終的に国庫に納付される。赤字国債発行を数千億円規模で抑制する効果があるが、110兆円規模の一般会計と比較すれば極めて小さい。国民が直接的に「儲かる」仕組みではなく、あくまで間接的恩恵にとどまる。
過去には以下のような案が検討されたが、いずれも実現には至らなかった。
国民への直接分配案:1人あたり60万円分のETF配布。→資産形成の追い風となるが、売却リスクや制度上の課題で見送り。
年金基金への移管案:GPIF等に移管し将来の年金支給に活用。→「年金基金に過大なリスクを背負わせる」との批判で頓挫。
NISAや投資教育への還元案:売却益を制度強化に充当。→制度設計上は可能だが現時点では具体化せず。
今回の売却は規模的には小さな一歩に過ぎない。しかし「日銀が出口に動いた」という事実は投資家心理に大きな意味を持つ。現在、日経平均は4万5000円近辺と高値圏にあり、利益確定の材料を探す局面である。ETF売却はその「理由付け」として利用されやすい。
株価の本質はEPS×PERに収斂する。これに加え、自民党総裁選という政治イベントが重なることで、市場の変動幅は拡大しやすい局面にある。
ETF売却の実務的影響は限定的であり、財政効果もごく小さい。むしろ、出口戦略のシグナルとしての重みが大きく、市場心理を左右する可能性がある。今後の日本株市場は、経済指標や金融政策に加え、政治動向を織り込みながらボラティリティの高い展開を続けることになろう。