関税に関する誤解
「15%の上乗せ関税」に関して、日本政府とアメリカ側の見解に齟齬が生じていました。この混乱の原因は、アメリカ側の事務的ミスであり、背景にはトランプ政権の人手不足が影響していることが鮮明になっています。日本側の見解が正しく、8月7日に米側が大統領令を「適時に修正する」と説明したと明らかにしています。
今後の焦点は、80兆円の投資資金の手当について、2つのシナリオがあります。政府系金融機関を通じた融資と財投債発行の2つの資金調達手段には、それぞれ異なるリスクと影響が存在。短期的な為替市場への影響から、金利上昇、さらには国民の税負担に至るまで、様々な視点で分析することが求められます。果たして、これらの政策変更は日本経済をどう変えるのか、そして株式市場の反応は?今後の政策動向に注目が集まっています。
一方で、今週の株式市場はトランプ関税問題にほとんど反応を示さず、むしろ株高が続いていました。アメリカの利下げ期待や減税の可能性が強く意識され、トランプ政権の発言には市場がほとんど無関心だったことが伺えます。特に、関税問題が一過性のものと見なされ、米国の金融政策や経済戦略が優先される中で、投資家たちはリスクを低く見積もっている様子が見受けられました。過去に何度もトランプ政権の発言が撤回・修正された結果、マーケットはもはや一つの発言に対して過敏に反応することが少なってきています。代わりに米国の企業業績や利下げの動向など、経済全体を見据えた判断が行われています。このように、関税問題が市場の主導的な要因でなくなっている現状を理解することも重要です。
結果的に、アメリカ側は大統領令を修正し、15%の追加関税は対象品目に適用されないことが確定しました。具体的には、すでに15%以上の関税がかかっている品目に対して追加の15%が掛けられないことになります。
今後注目されるのは、80兆円規模の対米投資の行方です。この問題に関しては、まだ多くの不透明な点が残っており、詳細が明らかになれば、国内での混乱や調整が生じる可能性が高いです。特に秋以降、この問題が本格的に論点として浮上し、国内外の政策に大きな影響を与えることになる可能性があります。
80兆円の資金調達方法については、2つのシナリオが検討されています。
政府系金融機関による融資
日本政府は、資金の約99%は政府系金融機関による融資で賄うとしています。例えば、日本政策金融公庫や国際協力銀行が保有する外貨資産やドル建て資金を活用し、投資先に貸し出す形です。この方法は、為替市場に対する影響を最小限に抑え、円安圧力も軽微にとどまるため、短期的な経済への波及効果はほぼないと見込まれます。
財投債の発行による投資資金調達
一方で、財投債(財政融資資金特別会計国債)を発行して投資資金を調達する場合、短期的に円売り・ドル買いが行われるため、円安圧力が発生する可能性があります。財投債は一般会計と切り離されるため、すぐに赤字国債のように財政赤字を膨らませるわけではありません。しかし、市場で財投債発行することには変わりなく、金利が上昇するリスクがあります。最終的に国民の税負担が増加する可能性があるため、長期的な影響を十分に考慮する必要があります。
もし財投債を発行して投資資金を調達する場合、国会で財投計画の改定承認が必要で、政治的な説明責任は避けられません。今年の秋の補正予算や来年度予算で制度の具体化がなされるとみられ、国債発行額の増加につながる可能性があります*2。さらに市場で財投債を大量に出せば、長期金利がわずかでも上がります。特に外交的な色合いを持つ投資案件の場合、リスク・リターンを十分に国民に説明する責任が問われることになります。資金が海外に滞留する可能性もあるため、円安の影響が長期的に続くリスクがあります。国会審議を通じて、慎重な議論と透明性の確保が求められるでしょう。
株式市場にとって最大の懸念点は、これらの政策変更や経済戦略が、実際に市場にどう影響を与えるかということです。特に、財投債の発行による円安圧力や金利上昇がどれほど市場に波及するのか、また、80兆円全てではないしろ、1%の投資では済まずに、10兆円、20兆円の投資規模になるかもしれません。投資資金の出どころがまだ確定していない中で、株式市場は現段階ではその影響を十分に予測できていません。もちろん、今の段階で最悪のシナリオを織り込むのは株式市場の性質とは異なります。しかし、現実味を帯びてきて初めて、金融市場は政策の不確実性がリスクとして市場の動きに反映されます。今後も「融資・投資」の議論について追いかける必要がありそうです。
80兆円のアメリカ投資の議論。融資による資金手当てであれば、為替や財政への影響は限定的であり、円安や金利上昇の影響を受ける可能性は低くなります。一方で、財投債による投資の場合、円安や金利上昇のリスクが現実のものとなり、これが長期的に経済や市場に与える影響は避けられません。注目するべき点は、これらの影響を政府はどのようにコントロールし、国民に適切に説明していくかという点にあります。今回の政策がどれだけ国民に理解され、受け入れられるかが、今後の評価を大きく左右することになるでしょう。
参考文献
*1 トランプ氏に刺さったZAITOU 安倍政権も駆使した「お家芸」(毎日新聞)
*2 「80兆円の対米投資」とは何なのか?~現時点の情報を踏まえたQ&A~(第一生命経済研究所 星野 卓也)