【日本政治考察】(ジェリフェ2025年1月号)山本雄史

馬渕 磨理子

【日本政治考察】
2025年の日本政治を展望する。本稿で扱うのは政局動向だ。今年は12年に一度、東京都議会議員選挙と参院選が同じタイミングで行われる年で、波乱が起きる予感がすでにある。「石破政権はいつまでもつのか」「衆参ダブル選挙はあり得るのか」も大事な論点だ。

「巳年選挙」は都議選がカギ

通常国会が1月24日に召集される。会期延長がなければ、6月22日に国会は閉会する。公職選挙法の規定を適用すると、参院選は7月3日公示、20日投開票が有力だ。ポイントは参院選前に都議選を控えている点だろう。日程はまだ決まっていないが、6月下旬になる見通しだ。この都議選の動向に参院選が引きずられるというのが、12年に1度回ってくる「巳年選挙」の特徴である。

「巳年選挙」は、決定的局面になったり、波乱が起きたりすることが多い。2013年の参院選は都議選で自民党が第一党に返り咲き、直後の参院選でも「安倍総裁━石破幹事長」コンビで勝利を収め、安倍長期政権の礎となった。2001年は、都議選も参院選も小泉純一郎首相(当時)の勢いで自民党が圧勝した。1989年の参院選は「山が動いた」戦いで、自民党が大敗し、宇野宗佑内閣が退陣した。直前の都議選でも社会党が躍進している。「巳年選挙」は、都議選の結果が重要だ。
その前提で現在の都議会構成をみてみる。第1党の都議会自民党(30)と第2党の都民ファーストの会(27)が拮抗し、これに第3党の公明党(23)、第4党の立憲民主党(14)と続く。自民と都民ファが都議選でも激戦を繰り広げるとみられているが、都議会自民党の裏金問題が東京地検特捜部案件に格上げされたため、自民党の劣勢は必至とみられている。小池百合子都知事が実質的に差配している都民ファは、都議選に狙いを定めた「石丸新党」に戦々恐々のようだ。一見すると国政の動きとは連動していないように見えるが、自民党大敗の空気だけは、確実に漂っている。

4つのシナリオ

摩訶不思議なことだが、石破政権は奇妙に安定している。野党がバラバラであることに助けられている上、自民党内の「反石破勢力」にパワーがないからだ。だが、野党が結束すれば、いつでも内閣不信任決議案を可決に持ち込める。石破首相の選択肢は、総辞職か解散・総選挙しかない。それゆえ、衆参ダブル選が取りざたされているわけだ。実際、石破首相は昨年12月28日の読売テレビ番組で来夏の参院選に合わせた解散・総選挙の可能性について「これはありますよね。同時にやってはいけないというそんな決まりはない」と発言した。

とはいえ、ダブル選をやるほどの政治的エネルギーが石破政権にあるとは思えない。そこで以下の4つのシナリオを想定しておくとよいだろう。①予算をめぐる政局で3月下旬から4月上旬にも石破内閣が崩壊する②通常国会会期末の内閣不信任案等をめぐる政局で6月にも石破内閣が崩壊する③7月20日といわれている参院選で自民党が大敗し、石破内閣が崩壊する④低空安定以降のままズルズルと石破内閣継続━いずれも十分可能性があり、25%ずつと予言しておきたい。

①の場合は内閣総辞職となり、自民党総裁選が行われるだろう。自公与党体制が継続するならば、自民党内から新たな首相が決まる。②の場合、衆参ダブル選の可能性が出てくる上、参院選を前に与野党の合従連衡が激しくなり、結果的に政権が交代することが予想される。③の場合、石破首相の辞任は必至のように思えるが、衆院選で負けても辞めていない石破首相なら、居座る公算が大きい。④の方向も十分あり得る。繰り返すが、昨年10月に行ったばかりの衆院選を再度、今年断行することはかなりの政治的求心力が必要だ。衆院選は難しい、というのが筆者の年頭の見立てである。

①~③いずれの場合においても、自公の枠組みが継続される場合、首相は自民党から選ばれる。「ポスト石破」は誰なのか。目下呼び声が高いのは、林芳正官房長官、加藤勝信財務相の両人である。2人ともそつなく答弁をこなす上、事務的に難局を乗り切るキャラクターだ。高市早苗前経済安保相は一定の求心力を保っているが、総裁選を制する勢いは現時点ではみられない。岸田文雄前首相が返り咲くシナリオも念頭に入れるべきとの見方もあるが、現状はまだ厳しいのではないか。

野党の悩み
立憲民主党、日本維新の会、国民民主党の3党が結束すれば、自公政権はまたたく間に追い込まれる。しかし、この野党3党の関係は、すこぶるよくない。自民党は「103万円の壁」で国民民主を手なづけつつも、維新にも秋波を送っている。主導するのは自民党最高実力者として君臨する森山裕幹事長である。「森山氏が党を牛耳り、石破政権を動かしている」という報道や記事を目にしない日はないほどだ。

野党の悩みはいくつもあるが、ひとつはこの森山氏との関係が悩みのタネにもなっている。森山氏は安倍政権下で長く国対委員長を務めたこともあり、野党とのパイプが太い。しかも、譲歩し過ぎるぐらい譲歩する構えを見せるので、野党はいつのまにか丸め込まれてしまう。野党は厳しく攻勢に出たいのに、森山氏と協議をしたり、相談をしたりしているうちにいつのまにかマイルドになってしまう。要は「やりづらい」のだ。

野党にとって「やりづらい」のは、石破首相も同様だ。昨年の予算委員会でいったん相手のことを認めてしまう「石破構文」に注目が集まったが、追及する野党側が拍子抜けしてしまっている。野党がよく言った!と思えるような答弁までする。ザ・党内野党という石破首相の気質と立ち位置が、野党
苦戦の原因となっている。

筆者の得ている情報では、自民党は日本維新の会に水面下でかなり近づいているという。国民民主と維新をうまく転がしながら、ズルズルと長期戦に持ち込もうとしているのが石破政権の通奏低音である。当然、政策はあまり進まない。悩ましい政権と、悩みの深い野党。都議選、参院選までに政局は動くのか。嵐の前の静けさを感じさせる年頭だ。(編集長 山本雄史)

一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事/経済アナリスト
著書
▪書籍『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』(ダイヤモンド社)
WEBサイト:https://mabuchimariko.jp/