【馬渕レポート】NISA日本株枠の 『新設』を (ジェリフェ2025年1月号)

馬渕 磨理子

【今月の巻頭言】
NISA日本株枠の『新設』を!

 新NISAがスタートして1年が経つ。非課税制度を追い風に約12兆円の資金が流入し、旧NISA時代の実績の4倍に膨らんだ。24年の1年間で人気だったのが海外株式型でトップは「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリ―)」だ。海外株人気から国内資金流出が懸念されている。NISA買付額のうち「国内株 対 投資信託」の割合は24年3月末(47%)であったものが、24年10月末(39%)と低下を続けている。国内株と投資信託との比較であるため、全てが海外流出ではないものの日本の個別企業自体を購入する割合は7カ月で8pt減少している事実を確認しておきたい。先行する英国ISAは海外株への記録的流出に対する対策を講じ始めていた。英国ISA・日本NISAの状況を整理することでNISA制度のねじを巻きなおす示唆とする。

英国 国内株への投資3割
 日本がお手本とした英国ISAは、国民の資産形成を促進するために1999年に始まった。日経新聞によればISAの23年4月時点の残高は7000億ポンド(135兆円)を超す。英国ISAは成人向けのものだけで4種類(預金型、株式型、イノベーティブ・ファイナンスISA、ライフタイムISA)と複雑さが一再ならず、課題になっている。株式ISAでは世界株や英国以外の欧州株の人気が高く、英国株への投資割合は推計で約30%だ。ISA全体の資金でみると、自国株には約15%しか向かっていない計算となる。24年3月に当時の
保守党スナク政権がISAの改革案(ブリティッシュ・アイサ)を提示していた。年間2万ポンドの非課税枠に5000ポンド(約100万円)を上乗せし、追加分の投資先は英国企業に限定するという内容だ。ISAの投資先を一部、英国株に強制的に振り向けるという制度改革案だった。

ブリティッシュ・アイサは頓挫の可能性
 ブレグジット・ショック(2016年6月23日)以降、英国では企業が英国以外で新規上場する事例が目立ち、国内企業への投資が低迷、海外企業への投資が堅調となっている。英国の抱える課題として海外株への記録的流出である。ブリティッシュ・アイサは前保守党政権の目玉政策だったが、7月の総選挙で与党・保守党が歴史的な大敗を喫した。最大野党・労働党が単独過半数を獲得し、キア・スターマー党首が首相に就任したことで、改革案が空転。労働党は、新たな投資枠の追加は制度を複雑にする恐れがあるとして反対。いや、労働党の踏み込んだ腹案はキャピタルゲイン税の引き上げすら考えている可能性がある。その事を懸念した英国の富裕層の一部は、既に株式や不動産などの資産を売却している。ブリティッシュ・アイサ構想が政治的敗北に終わるとするならば正しい道とは思えない。三菱UFJアセットマネジメントによれば、英国の国内株は純流出が加速しており、2023年まで8年連続の純流出、2023年は12億ポンド/約2240億円と過去最大の純流出である。2016年以降の純流出額総額は55億ポンド/約8500億円に上る。ブリティッシュ・アイサや株式市場改革等で国内株投資を促す理由であった。政権が変わろうとも、英国の現状は変わらないはずである。

新NISA、5兆円は人気海外ファンド
 英国と日本を単純に比較は出来ない。ブレグジット・ショック以降、英国市場の魅力が失われている状況は日本とは異なる。日本の市場は海外投資家から見ても魅力的なマーケットだ。国内の個人投資家にとっても日本株は魅力的のようだ。成長投資枠での株式の買付額のうち「国内株 対 海外株」で国内株は2024年3月末(95%)、2024年10月末(93%)と高い数字を維持している。成長投資枠での日本株投資が上手く機能していると言える。だた、新NISA制度で24年に資金流入した上位5のファンドの流入金額を並べてみると。「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」2.2兆円、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」1.8兆円、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)」1兆円、「インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(毎月決算型)」6.2億円、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)」3.2億円と上位5つのファンドはすべて海外株であり、約5兆円の資金が集まっている。2024年のNISAの買付額は約12兆円のうち42%を占めることになるNISAはいかにシンプルな制度にするかがポイント。24年からスタートした1800万円の生涯枠の制度はそのままで。生涯枠300万円・年間60万円(月々5万円×12ヶ月×5年)の日本株専用枠を提案する。日本人が日本株を長期投資の対象とすることが、海外勢から見ても需給面でも魅力的だ。今後のデータ推移を見守りながらになるが、日本株投資のモチベーションアップや金融資産のキャピタルフライト、デジタル赤字の二の舞を踏む前に、先手を打つ思考が必要だ。『NISA日本株枠の新設』は議論する価値がある。(日本金融経済研究所代表理事 馬渕磨理子)

一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事/経済アナリスト
著書
▪書籍『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』(ダイヤモンド社)
WEBサイト:https://mabuchimariko.jp/