【日本政治考察】
9月27日に行われた自民党総裁選で、石破茂氏が決選投票を制した。10月1日、衆参両院での首班指名を受け、第102代内閣総理大臣に就任する。稀にみる接戦となった総裁選で何があったのか。当面の政治日程を押さえつつ、日本政治の見通しを探る。
岸田と菅で麻生をつぶした総裁選
総裁選の決選投票で、高市早苗氏が石破氏に僅差で敗北した。議員票は189票対173票、わずか16票差だった。石破氏が強い支持を得たわけではない。高市氏の力は本物だった。マーケットや金融筋も、一時「高市首相」になると思い込んだ。
石破氏が辛勝できた理由は、①タカ派過ぎる高市氏では衆院選で不安が残る。野党にも攻められやすい。相対的に石破氏しかないという究極の議員心理が働いた②岸田文雄首相と菅義偉前首相が「決選は石破支持」を明確にした③麻生氏がわざわざ「決選は高市氏で」と指示したことで、党内に「反麻生」の空気が広がった④決選投票前の演説だけみると、圧倒的に石破氏のほうが良かった━━などが挙げられる。いずれも既存メディアが精力的に報じている内容なので割愛する。
筆者は②が決定打だと思う。小泉進次郎氏の議員票が75、林芳正氏の議員票が38。この計113票は小泉氏を担いだ菅氏と、林氏を実質的に担いだ岸田氏が積んだ票といえる。犬猿の仲とされる前首相と現首相が一緒になって石破氏を支持した格好だ。
特に岸田氏は「決選は高市氏以外」と明確に指示を出し、その通りに票が乗ったといわれている。旧岸田派の上川陽子氏の票も上乗せした。なお、これはあまり指摘されていないが、参院の旧茂木派が石破氏でまとまったことも見逃せない。
麻生氏は高市氏に賭けた。菅、岸田の両氏が結果的に組む形となった。決選投票で議員を操ることができるキングメーカー候補3人の死闘は、「麻生VS菅・岸田」の2対1になった。政治と外交と喧嘩の要諦は2対1の構図づくりだ。麻生氏は、岸田政権の「岸田━麻生━茂木」の三頭政治をもくろんだが、岸田氏が離れ、旧茂木派の約半分が石破氏に回ってしまった。冷酷な数の論理がそこに存在している。
党内力学の変化
派閥は麻生派以外、解散しているが、誰もが考えているように、派閥の枠組み自体は残っている。派閥の力学、党内力学で観察すると、石破政権には大きな特徴がある。2012年の第2次安倍政権以降の大まかな主流派の推移をおさらいする。
①安倍政権前期━安倍・麻生両派中心、石破・谷垣両幹事長、
②安倍政権中後期━安倍派、麻生派、二階派の3派体制、茂木派も伸長、菅グループが台頭
③菅政権━二階派、森山派が枢軸、安倍・茂木両派も連帯、麻生氏も副総理ポスト維持
④岸田政権━岸田派、麻生派、茂木派の3派体制
⑤石破政権━石破系、旧岸田派、旧森山派、参院旧茂木派、旧二階派、菅グループ+小泉系
派閥次元でみると、旧麻生派がついに主流派から姿を消してしまったことがわかる。旧岸田派と旧二階派が一緒になるのは、石破政権が久しぶりである。旧安倍派が岸田、石破の両政権で表に出ていないこともわかる。
党内力学の変化は何をもたらすのか。菅氏と岸田氏がしっかり石破政権を支えれば政権が安定する可能性が出てくる。派閥単位でみれば、石破政権は幅広い派閥から支持を得ていることがわかる。石破氏は副総裁に菅氏、幹事長には菅氏と近い森山裕氏を据えた。重鎮2枚で党を押さえるという構図だ。閣内では、旧岸田派の林官房長官を続投、党四役の政調会長にも旧岸田派の有力者・小野寺五典氏を起用した。旧岸田派への配慮は際立っている。
驚くべきは、麻生派の登用にも余念がない点だ。総務会長に鈴木俊一氏、経済産業大臣に武藤容治氏、環境相に参院の浅尾慶一郎氏を充てた。いずれも麻生派である。もちろん、「裏金議員」を排除するため、どうしても数的に麻生派を入れないと組めないという事情もある。人事では手堅さを見せているという印象を抱く。
衆院選は10月27日投開票 石破長期政権への道は
衆院選挙は、「10月15日公示━10月27日投開票」となった。石破内閣に「刷新感」があるかどうかと問われれば、微妙なところではある。内閣支持率は一気に上昇しないかもしれない。本稿執筆時には材料が少ないので、あくまで予測でしかないが、自民党は衆院選で案外苦戦するだろう。野田佳彦代表率いる立憲民主党が善戦する気配があるからだ。
野田氏は首相経験者である上、いわゆる中道保守を取り込める立ち位置にいる。日本維新の会との連携、選挙区調整も本気でやろうとしている。維新側はこれまで激しく立憲を批判してきただけに、簡単には乗れない。しかし、水面下での模索、調整は始まっており、立憲ベテランと維新最高幹部が9月24日、都内で密会したとの情報もある。
意地を張り合っていれば、石破新政権がご祝儀相場で勝利するのは自明の理だ。野田氏側には、小沢一郎氏がついており、同党総合選対のナンバー2、本部長代行に就任予定だ。小沢氏の剛腕で、多少なりとも、立憲と維新が選挙区調整に成功すれば、自民党は議席をこぼす。石破氏は、早期解散に討って出ないと不利だという判断をしている。
いつの時代も政治日程にすき間はない。11月にはペルーでAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議、ブラジルでG20(20カ国・地域)首脳会議を控え、12月には令和7年度予算案、同年度税制改正大綱がある。来年夏は、東京都議選と参院選が12年に1回重なるタイミングだ。
石破政権としては来年夏を乗り切れば長期政権への道が開ける。果たしてどんな政権運営を行うのか。
(ジェリフェ・ニュース 編集長/日本金融経済研究所 政策顧問 山本雄史)