ジャクソンホール会議 2025 Bloomberg TOPLive Transcript(08/22)ジェリフェ通信(日本金融経済研究所/代表理事 馬渕磨理子)

馬渕 磨理子

Bloomberg TOPLive Transcript(2025年8月22日)の要点を整理し、パウエル議長講演・市場評価・労働市場の構造変化・関税財政依存リスクをまとめた政策金融レポートを書きました。

詳細はPDFをご覧ください。

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1. パウエル議長の講演内容
9月利下げに含み
「政策は制約的水準にあり、基調見通しとリスクの変化は調整を正当化する」と発言。
→ 市場は即座に「9月利下げ確率が8割超」織り込み。
ただし大幅利下げは否定
「失業率などが安定しているため、慎重に進める」と50bp利下げ要求を退ける姿勢。
労働市場への見方
「需給がともに減速する“奇妙な均衡”」 → 雇用悪化リスクを強調。
インフレ認識
関税の影響は「一時的な物価上昇」が基本シナリオ。ただし「持続的なインフレ動態」
になるリスクも残る。
政策枠組み変更
o FAIT(平均インフレ目標)を削除
o 「最大雇用からの不足」の文言を削除
→ インフレ目標2%に一本化し、労働市場の過熱容認度を低下させた。

2. エコノミスト・市場参加者の評価
 9月利下げがメインシナリオだが「雇用統計とCPI次第」。
 かなり強い雇用統計が出ない限り、9月利下げは既定路線。
 Barclays / BNP Paribas:予想を修正 → 9月と12月に25bp利下げと予測。
 「パウエルは“利下げのドアを開いた”。ただし閉め直すのは非常に難しい」と分析。

3. 今後の焦点
 FOMC(9月16–17日)までに出るデータ
PCE(8月29日)、8月雇用統計(9月5日)、CPI(9月11日)
 9月の利下げ確率はほぼ横ばいで、年内利下げ回数も2回で継続、3回利下げ観測も
 Nvidia決算はFRBラリー後の市場最大リスクイベント
市場の関心は8月27日のNvidia決算に移っている

■米労働市場:ブレークイーブンレートの低下と移民政策の含意 08/22 10:56(米国時間)
FRB のパウエル議長は、労働市場において「需要と供給の双方が著しく鈍化している」と
いう“奇妙なバランス”に言及した。これを受け、エコノミストの間では、失業率を安定的に
維持するために必要な雇用増加数(ブレークイーブンレート)を従来想定より引き下げる動
きが広がっている。従来は人口増加を背景に毎月10万人規模の新規雇用が必要と考えられ
ていたが、CIBCキャピタル・マーケッツの分析によれば、高齢化や出生率低下に加え、強
制送還の加速により労働供給が抑制される場合、わずか 2 万人程度の雇用増でも失業率は
安定する可能性がある。労働力供給の縮小は経済全体に波及するリスクを伴うが、その影響
が鮮明になるにつれ、経済を下支えする手段として大規模な合法移民の受け入れを支持す
る政治的余地が拡大する可能性が指摘される。すなわち、米労働市場の均衡水準の低下は、
単なる統計上の変化にとどまらず、移民政策やマクロ経済運営に直結する重要な転換点を
示している。
(日本金融経済研究所:解説)「以前は毎月 10 万人以上の雇用増がないと失業率は悪化す
ると考えられていたが、労働人口が減っている今は、たった 2 万人の雇用増でも失業率を
安定させられるかもしれない。移民制限が強まればさらにこの傾向は進む。結果として、経
済のために移民受け入れを増やそうという議論が出てくる可能性がある」

■米国関税収入の「恒常化」リスクと財政依存 08/22 11:50(米国時間)
トランプ関税により、米国は現在 年間2,000億~3,000億ドル規模の関税収入を得ている。
これは短期間で歳入源として定着しつつあり、米国は将来的にこの収入に「非常に迅速に依
存する」可能性が高いと指摘されている。当初の関税引き上げは、貿易相手国との摩擦激化
や市場の混乱といった「初期コスト」を伴った。しかし時間の経過とともにこうした混乱は
吸収され、現在では関税収入が安定的に予算に組み込まれつつある。結果として、将来の政
策決定者にとって、追加関税の導入・維持は「コストの低い政策手段」として認識されやす
い環境が整いつつある。米国の関税収入は歳入全体に占める比率としては依然限定的であ
るが、増税や赤字削減策が政治的に困難な中で、比較的実行可能な財源としての性格を強め
ている。関税は消費者や輸入企業にとって「隠れた増税」となり、国内価格水準を押し上げ
る副作用を持つ一方、政府にとっては即効性のある財源となる。
(日本金融経済研究所:解説)「トランプ関税「恒久化」のリスクがある。米国の関税収入
は一時的な通商政策を超えて、恒常的な財政基盤の一部として組み込まれるリスクが高ま
っている。これは財政面では短期的にプラスだが、マクロ的にはインフレ圧力や国際摩擦を
持続させる「隠れた負債」となり得る。投資家にとっては、米国関税政策が政権交代を超え
て持続する前提でリスク評価を行う必要がある。トランプ政権の終了後も米国関税はむし
ろ拡大する可能性が高い。」

一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事/経済アナリスト
著書
▪書籍『5万円からでも始められる! 黒字転換2倍株で勝つ投資術』(ダイヤモンド社)
WEBサイト:https://mabuchimariko.jp/